三寺さん、今、貴方は何処にいらっしゃるのですか?
片道切符だけを手にして、8月2日午後9時40分、電波の届かない所に旅立たれて、今日、9月19日で四十九日になるそうです。
お話ししたいこと、相談したいこと、教えてもらいたいことが山ほどあります。
お逢いしたいです。とてもお逢いしたいです。
いいえ、お逢いしなければならないのです。帰って来て下さい!
私は朝起きると、まず携帯に貴方からの伝言が入っていないか確認します。
それからパソコンにメールが入っていないか確認します。
仕事に出かける前、帰ってから、寝る前に同じ事を繰り返しています。
スタジオ(プラザムージカ)に着くと、1階のみてら音楽事務所のドアを開きます。
ブラインドの閉め切られた部屋は薄暗く物寂しい気配が漂っています。
奇麗に片付けられ整頓された三寺さんの机の上には、華やかにお花が生けられ写真が飾られていて、椅子にはいつも羽織っていた上着が掛けられています。そっとその上着に触れてから、私は椅子に座ります。
3台のパソコンと多くの音楽機材が私を取り囲んでいます。
いつも音楽が流れていたこの部屋が、今は静寂そのもの。無言のまま暫く椅子に座り続けます。こころが落ち着く迄…。
今にも、突然ドアが開いて「西沢さん!!何しているの?こんな暗い部屋で!1」
と、三寺さんのあのはじける様な相手に安らぎを与える笑顔が覗きそうです。
私はその時を待って、何度もドアを振り返ります。
それが無理…と、納得すると、三寺さんが仕事をしやすい様に、机の真上の明かりを付け、ドアを開けっ放しにして2階の私のレッスン室に向かいます。
昨年(2007年)10月のリサイタルの時、貴方は腰が痛いと言い、椅子に座って指揮をしました。その頃は単なる腰痛、又は年のせいと軽く思っていました。
ところが日に日に背中が曲がり、歩きにくくなり、指先の細かい仕事がしにくくなり、歩行困難になり、発声しにくくなり、病院巡りが始まりました。
様々な診察を得て、神経内科に辿り着きました。原因がはっきりしないまま、見る見る私の目の前で病状が悪化し、やせ衰えて行き、5月に入って遂に私の方が倒れてしまいました。
5月27日、三寺さんは難病中の難病である「筋萎縮証」( ALS)と診断されました。
「現在の医療では治す方法がありません。少しでも進行を遅らせる為にリハビリしかありません」とのことでした。
それから三寺さんのすざましいまでのリハビリとの戦いが始まりました。
「絶対に進行を遅らせてみせる!!」との執念で、すでに呼吸筋に麻痺が起き始めていて、息苦しい中でも、一日も休まずリハビリに挑戦し続けました。
7月28日、いつもより三寺さんの体調が良くないと感づいた奥さんが
「今日はリハビリ休もうか?」
と、問いかけましたが
「いや!行く!」
と言う三寺さんの返事でそのままリハビリに通いました。
帰って来ると三寺さんは「疲れた!」とベットに横になりました。
暫くしてベットから片足が落ちている三寺さんに奥さんが気づいた時には、既に心臓は停止していました。
救急車で福井県立病院に運ばれた時には、脳死状態で、意識不明のまま8月2日午後9時40分、穏やかな笑顔のまま静かに息を引き取りました。
最後迄諦めず、リハビリを頑張り通し、信じられない程のあっけなさで皆の前から姿を消しました。
22年前(昭和62年)、大正琴の世界がまだまだ未開発の世界で、楽器として世間に認知されていない時、私と三寺さんは出会った。
「西沢さん、僕は必ず、大正琴を弦楽器として世間に認知させる。西沢さんは奏法の研究、奥下さんは作曲、編曲、バンドマスター、僕は、演出、脚本、録音技師、舞台監督、プロデューサーとして、3人で大正琴の世界を開拓しょう!!」
という話し合いのもと、西沢純子大正琴スタジオを立ち上げ、ただひたすら、戦友として、同志として三寺さんを先頭に大正琴の世界を開拓し続けてきた。
「アコースティック大正琴ヴェガ」を3年前に開発し、やっと音色も安定し「さあ!これから!!」という大事な時に三寺さんは突如姿を消してしまった。
一番大切な大黒柱を私は失った。
茫然自失、空虚、寂しさ、不安、悲しみ等々一時に私に覆いかぶさって来た。
正直、家の中に閉じこもって誰にも会わず、西沢純子大正琴スタジオも解散し、膝小僧を抱えて、悲しみという大海原に小舟を出して、独りぼっちでひたすら疲れ果てる迄小舟を漕ぎ続けたい!
でも、私には生徒さんに対する責任がある。
泣き顔を見せれば皆さんを心配させる。
三寺さんの奥さんも励ましてあげなければならない!
私には夫が有り子供も居る。三寺さんの奥さんには子供は無く、三寺さんがすべてだった。私より遥かに遥かに悲しみは深いであろう。
私は悲しんではいられない。私が泣くのはお風呂に入っているときだけ!!
『さあ!!西沢純子さん!!しっかりしなさいよ!
奥下順造さんという素晴らしい作曲、編曲、ギタリストが貴方には付いていますよ!
背伸びせず、片意地張らず、貴方の出来る範囲内で生徒さんを導いてゆけばいいのです。ゆっくり、ゆっくりでいいのです。
辛くなったら、悲しくなったら、寂しくなったら、お風呂に入って思い切り泣きましょう!
涙はこころを癒してくれますもの…』
三寺さん、このコーヒーブレイク読んでいますか?
私は見かけ程強くないのです。どうぞ、私を見守って下さいね!
助けて下さいね!
そして幽霊でいいから時々はお姿を見せて下さい!!
謹んで、三寺幸雄さんのご冥福をお祈り申し上げます。
それでは、又、この部屋でお目にかかりましょう。
2008年9月19日